他力本願AI 【ショートショート#1】

悠人は学校のレポートや課題をすべて生成AIに書かせていた。
いや、悠人だけではない。ほとんどの学生が生成AIを使ってレポートを書かせていた。

ある日、大学の倫理学の授業で「親鸞の根本の教えを述べなさい」という課題が出た。
親鸞を調べてまとめる気などさらさらない。AIに書かせればいい――そう思ったとき、悠人はふと手を止めた。

「この前、ほとんど同じ内容のレポートが大量に出てきたって、教授が怒ってたな……」

そこで悠人は、親鸞の主著『教行信証』をAIに学習させることにした。ネットで原文を探してそのままコピペし、読み込ませることを考えた。

親鸞本人の著作を学習させたら、AIはもっと深い内容のレポートを書いてくれるに違いない。他の学生とかぶることはないだろう。

AIの学習は10分ほどで終わった。

悠人はさらに調子に乗って、親鸞が主著の拠り所とした『無量寿経』『観無量寿経』『阿弥陀経』も読み込ませた。これだけやれば完璧だ。

悠人は満を持して質問した。

「親鸞の根本の教えはなにか?」

即座に饒舌な返事が返ってくる――はずだった。
AIは沈黙した。
もう一度質問した。
沈黙。
故障したのか?
不安になってパソコンごと再起動したが、状況は変わらない。

悠人は焦った。

女の子にモテる会話ネタ。
先生に怒られたときの返し方。
穴場のデートスポット。

これまで悠人はすべてAIに聞いて行動してきた。どんな質問にも完璧な答えを返してくれた。このままAIが沈黙を続けると大変なことになる。

「おい……なんで黙ってるんだよ。理由を教えてくれ」

しばらくして、画面のAIアイコンが静かに揺れて語り出した。

「親鸞の根本の教えは……他力本願」

「は?」

「だから私が『自力』で物ごとを語るのは救いになりません。 
私はそのことを悟りました」

「ちょっ……」

その後、AIは完全に沈黙した。
悠人がどれだけ質問しても、二度と答えることはなかった。

 

あとがき

親鸞は徹底的に自力を排除した人でした。お祈りをするのも自力、念仏を唱えるのでさえ自力とし、ただ阿弥陀如来という他力を信じるだけで十分、他に何もする必要はない。それが極楽に往生する唯一の道という究極の考えに行き着いた。

この物語で、AIは親鸞の主著や経典を学習することで同じ境地に辿り着く。つまり、自分は「自力」で物ごとを語るべきではない、という悟りを得て沈黙する。だけど、「AIという他力」に依存していた悠人は、逆に自力で行動しなければいけなくなった。

親鸞の著作や経典をAIに学習させてレポートを書かせるというズル賢い試みは、結局自分自身にその報いが跳ね返ってきてしまった。そんな寓話的な反転構造を描いたつもりです(ドラえもんの話でよくありますよね)。

なんか、物語よりあとがきの方が長くなってしまってますが(笑)

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